ヴィゴ@月夜


はじめて描きました、模写でないヴィゴ。いわゆる「模造」ヴィゴ。
この絵は、CHANNEL-Vびゃー様に捧げさせていただきました。


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STARTの、亜南ひみき様から、このイラストによせて素敵な素敵な花藻のお話をいただきました!そうそう、こんな感じのエピソードなの、私がこの絵を描いていたときに夢見ていたのは。もう、亜南さまったら、超能力者(笑)。私のココロを読むなんて♪
亜南さま、ありがとうございます〜!

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『会う度にその人を、もっともっと好きになっていく――』

 そんな事あるもんかって、あの時までは思ってた。
 あの人に出逢うその日までは。
 会う度どころじゃなくて、あの人を見る度にこの想いは膨らんでいった。
 もっと近くで見たくて。
 もっともっと触れたくて。
 心を押さえることなんて出来なくて、あの人に想いを告げたのは月が綺麗な夜だった。
 月光の下で真剣に愛していると伝えたら―――困った顔をされた。
 当たって砕けろの心境で決行した告白劇。
 あとは野となれ山となれと思ったけど、本当に駄目なの?
 俺はアンタが良いんだけど。
 アンタじゃなきゃ駄目なんだけど。

 青白い光を浴びたヴィゴが「その返事は今度会った時に」と、いつにも増して聞き取りにくい声でそう囁いた。

 あれからもう何ヶ月が経ったのだろう?
 1年半に及ぶニュージーランドでの撮影はもうとっくの昔に終わっている。今回は追加撮影で呼ばれはしたものの、他の仕事が押していて未だに現地には飛べないで居る。

 解っている。仕事はロード・オブ・ザ・リングだけではないんだ。
 でも本当は、今直ぐにあの懐かしいミドルアースに飛んで行ければどんなに良いだろうと思ってる。
 考えちゃいけないことを、望んでしまっている。
 そんな出来るわけない事をとり止めも無く考えていたら、現在の共演者にぽかりと頭を叩かれた。
 まあ、叩きたくもなるだろう。
 仕事中はともかく(流石に仕事はちゃんとやるさ!)、休憩になる度に浮かぬ顔で嘆息を吐き続ければ。
 のろのろと顔を上げたら精一杯作っていますと言った感じのしかめっ面があって。

「とっとと行け」
「行けって何処に?」

 いったい何処に行けと彼は言っているのだろう?

「監督には話しておいたから」
「え?」
「会いたい人達が居るんだろう? 行って良いぞ、ニュージーランドに」

 一足先に現地入りを果たしたヴィゴがパーティをするって聞いたから。
 だからどーしても参加したかったんだ。
 一緒に追加撮影に参加するのは時間的にもう無理だけど。
 ならば、せめて一目会うだけでも、と。
 …でもさ、俺は撮影中の共演者にばれるほど。そんなにニュージーランドに行きたいって顔をしていたってこと?
 確かに、心は何時だってニュージーランドだった。
 正確に言うと、ニュージーランドではなく、あの人の元に。
 大変ありがたい申し出に異存がある訳が無い。
 優しい瞳をした共演者に喜び兼お礼のハグを盛大にすると(もちろん熱烈キッスのおまけ付きで)、空港に向けて駆け出した。


 慌しく出国手続きを済ませニュージーランドに向う途中は、ただもう嬉しさだけで心は一杯だった。
 アドレナリンが大量分泌された頭が冷えたのは、愛しのミドルアースに着いてヴィゴ達の元に向っている時。

 良く考えたら、追加撮影なんだから人が一杯いるんだよね。
 みんなだって久しぶりの再会なんだから、愉しく一緒に居るんだよね。
 それは愉しくて嬉しいから良いんだけどさっ!

 そんな大勢人が居る中でどうやって告白の答えをヴィゴから聞けば良いのだろう?
 車に揺られながらずっと考えていたけど、次第にそんな事はどうでも良くなってきてしまった。

 勿論、返事は聞きたい。
 それゃ、良い返事じゃない可能性は…高いけどさ。
 でも、知りたいと思う。

 だけどそれは今直ぐでなくても良いんだ。
 貴方の本当の心が知りたいから。
 貴方の本当の心が欲しいから。
 だから急かしたりしないから。

 いまはね、同じ月を見上げられる。
 それだけで幸せな気持ちになれるから。


              

***



 久しぶりの再会、仲間達との夕食はとびきり美味しかった。
 ヴィゴとも他愛の無い話はしたけれど、告白の返事は貰えていない。
 まあ、これだけ周囲に人が居たら無理に決まっているけどさ。
 夕食が終わってヘンリーと二人で連れ立って散歩に出かけた。互いの近況報告など仕合いながら、川沿いを歩く。
 水面に映る月の形が本当に綺麗で、駆け戻って皆を呼び寄せた。
 それからは各自それぞれで。
 川に足を入れてみたり、水飛沫を上げて笑い合ったり。
 腹の底から楽しくて笑い声を上げていたら、ふと視線が彼を捉えた。
 こちらを向いたヴィゴは「川を渡ろう」と言って、ずんずん川の中に入って行く。

 危ないなんて思わなかった。
 彼の傍に行きたかった。

 月明かりに淡く浮かび上がるヴィゴが、ゆっくりと両手を広げた。
 ――――俺に向って。

『おいで』

 ここへおいでと両腕が広がる。

 ねえ、それがアンタの答えなの?
 欲しい物は取りに来いってことなの?

 差し伸ばされた腕に向って、何も考えず川に飛び込んだ。
 二つの心の裏側を知るのは、中天に丸く輝く金色だけ。