ーー眠ると、必ず同じ悪夢を見るようになったのは、いつ頃からだったろう。
………その夢のなかで、ファラミアは高熱にうなされ続けている。身体を動かそうにも指一本動かず、懸命に息を継ごうとしても、灼けた胸のなかには、ちっとも空気は入ってはこない。
鉛のように重たい目蓋をやっとのことで持ち上げると、そこには、今まさに炎のなかに消えていこうとする老いた背中があるのだ。
ーー父上!
出ない声でファラミアは叫び、父のあとを追おうと闇雲にもがくーーだがそれはあくまでも彼の意志のうえのことであって、実際の彼の身体はぴくりとも動こうとはしない。
それでも気配に気づいたのか、父はゆっくりとこちらを振り向く。炎に縁取られた顔に浮かぶ、哀しげな微笑みーーその瞬間、けたたましい叫び声と共に、翼のある影が頭上を行き過ぎる。
ふいに風がわき起こり、炎が大きく煽られて視界を覆ってしまう。
再び目をあげると、哀しげだったはずの父の顔は、一変している。憤怒の形相と化したその顔の、落ち窪んだ眼窩の奥から、ふたつの眼球があからさまな蔑みをたたえてこちらを睨みつけている。
ーー余の意志には逆らわぬと誓ったその同じ口で、もう早速に、北の流れ者に忠誠を誓ったのか。足下にひざまずき、その裳裾に口付けおったのか。
(「薄明」より抜粋)