森のなかを、黒衣の男が走って行く。けれど、行き着いた木立の先のその奥に、先ほどまでは確かにぽかりと口をあけていたはずの――彼が確かに通ってきたはずの、環状区へと至る出入り口は、ない。
 ただ、金色の木漏れ日に照り映える緑の枝が、幾重にも折り重なって、行く手を阻んでいるだけだ。
「どこへ行こうというの、アラゴルン?」
 耳によく通る、美しい声が追いかけてくる。
 アラゴルンと呼ばれた男は、はっと後ろを振り返る。先へ伸ばしたその腕は、けれども密生した枝にやんわりと拒まれる。枝々がつくる緑の壁は、決して男を傷つけることはない。けれどまた、決して逃しもしないのだ。
「私をここから出せ、レゴラス!」