「ではソロンギル、おまえに尋ねよう。---おまえは、中庭にある枯れ木、あの木を見てどう思った?」
「---白の木ですか---。」
 副官は、言葉を捜すように黙り込んだが、デネソールの視線を受けると、端的に答えた。
「----哀れだと思いました。昔は美しい木であったでしょうに、枯れてしまっていて。」
 デネソールは唇の端をもたげる。ここまで思考回路がわかりやすいと、いっそ爽快な心持ちさえするものだ。
 日頃、空虚な美辞麗句を連ね、こぞって枯れ木賛美に終始している貴族達の姿が、脳裏をよぎる。そう---あんな無意味なお追従を言わないぶんだけ、この武官のほうがまだましというものだ。だからこそ、こんな単純な輩であっても、側に置いておくことに耐えられる心持ちがするのであろう。
「おまえはあの木を、本当に彼のニムロスの子孫だと思うのか? かつては美しい銀の葉をつけていたと?」
「‥‥‥‥。」
「私はそうは思わない。」
 デネソールはやんわりと冷たい笑みを浮かべてみせる。この、単純にひとの善意を信じてしまう男---たとえ実りのない戦を続ける日々ではあっても、世界にはまだ美しい部分が残っているだと信じている男---に、どろどろとした悪意を注ぎ込んでしまいたい---そんなどこか倒錯した悦びを覚えながら。



(Honesty1・SSより抜粋)