ファラミアは能吏である。
たとえ王の無自覚な媚態に理性が吹き飛び、人格変更線を越えてはるか西方の地までかっとんでしまっていようとも、彼は、およそ必要とされる手順といったものは、きちんとこなすことができるスキルの持ち主であった。現に、この寝室に王を運び込む前には、事前にしっかりと寝室の周囲の人払いを命じてあるし、こちらから出ていって呼ばない限り誰も立ち入らないように侍従達にも厳しく申し渡してある。そういった面ではまったくもって抜かりがない奴なのである。
対して、こちら一旦気を許した人間にはまるで無防備かつ抜かりのカタマリのように変じてしまうやっかいな性質をもつゴンドール国王のほうはというと、万歳する恰好で両手をベッドのヘッドボードに括り付けられてしまったまま、なす術も無く、際限なく続けられるファラミアの説教を拝聴せねばならない事態に陥っていた。
そんなアラゴルンの前で、今や完全に目が座ったファラミアは、アラゴルンの王としてあるまじきふるまいを、ひとつずつねちねちとあげつらいはじめている。
「だいたい陛下には、一国の王としてのご自覚が足りなすぎます! たとえ城内であるにせよ、人前に出られるのであれば、一分の隙も露出もない正装のこしらえでお出ましいただくのが常識と云うものでしょう? ……それをなんです、陛下、あなたは、いくらおみ足を痛められたからとはいえ、あんな艶かしい素足を衆目に晒し、さらにはお身体の線もあらわな軽装のまま、城内をふらふらと……ええ、これだけでもとうてい許せるものではございません!」
………文句のなかに、微妙に、よくわからない私情が入り混じっているような気がするのは気のせいだろうか。
(包帯王・SSより抜粋)
太字のところは、ファが特に力点を置いたところらしい(笑)。