「どうしても、行かれるのですね。」
馬上のひととなった私を、ファラミアは見上げていた。大河からの風が、弟の柔らかい髪を巻き上げ、揺らして通り過ぎていく。
私がいなくなれば、このオスギリアスの前線で兵達を率い、白の都の盾となって戦い続ける役目も、当然ファラミアひとりに委ねられることとなるだろう。
重圧ではあろうが、彼ならばやり遂げてくれよう。私が夢のお告げの謎を解き、白の都へ帰り来るその日まで、粘り強く持ちこたえてくれるはずだ。そして、私のいない場所でのファラミアの活躍は、もしかしたら、父の、彼への認識を改める機会にもなりうるはず……祈りにも近い想いで、私は、そう願わずにはいられなかった。
「頼むぞ、ファラミア。この国にお前が残っていてくれるからこそ、私は出立できるのだからな。」
私がそう云うと、弟は僅かに首を振って、答える。
「皆までおっしゃらなくとも、わかっております。
兄上も、どうかご無事で。」
私も、無言で頷いた。
見送る者と、見送られる者――ふたつの立場に分たれて、私と弟は、その対岸からお互いの姿を見つめ合っていた。
「たとえ父上がそうとはお認めになって下さらなくても、私はあの夢には意味があったのだと信じます。
……そして、あの夢の示す救いの意味を、兄上が見極めてきて下さることを信じて、お帰りをお待ちしています。」
ファラミアの言葉に、私は、右手を高くあげ、天に向かって突き上げてみせた。
「それがゴンドールに真に必要なものならば、私がこの手で自ら掴み取ってこよう。
ファラミア、この兄が、彼の地から、救いをもたらしてみせようぞ!」
――それが、弟ファラミアとの別れとなった。
(持たざる者(前編)より抜粋)