全てが雪の白と闇の漆黒の、ふたつの単調な色に埋め尽くされ、他の色彩はほとんど見えないに等しかった。彫像のように動かないエルフの金の髪も、今は雪の白に隠されてしまっている。
ごうごうと、風が渦巻く。払っても払っても、足元の雪はかさを増し、その冷たい腕のなかに私達を呑み込もうとする。
圧倒的な自然の猛威のなかで、私はあまりにもちっぽけで、非力な存在にすぎなかった。今この手に抱える二人のホビットの命さえ守れるかわからない。たとえどんな武力を誇ろうと、故国でどんなに高位の将軍職についていようと、そんなものは目の前の吹雪にはなんの効果もありはしないのだ。
疲労と眠気でぼんやりとした視線を隣に向けると、思いがけない近さで、同じようにサムとフロドを抱きかかえたアラゴルンの姿があった。その黒い髪にも黒衣にも容赦ない雪が降り積もり、地の色をほとんど奪ってしまっている。冷たい雪像のように見える彫りの深い横顔のなかで、ただ蒼い色をした目だけが、淡い生気を宿し続けていた。
ときどき、睫毛のうえに溜まった雪を払うためか、ゆるく瞬きする。だがそれ以外は、さすらい人は一切の身動きをせず、無言で目前の闇を凝視していた。
――外界から閉ざされた、吹雪のなかの一夜。明日には皆の生死もわからぬような、そんな特別な夜には、ふいになにもかもが明らかになり、全ての謎もわだかまりも解けたかのような気がするものだ。
触れるほどの近さで寄り添い、闇のなかにただひとつ灯った灯りにも似た、その瞳の蒼に見入りながら、私は彼を知りたいと、はじめて激しく願った。今ならわかると思った――自らを持たざる者だと、なんの信念も誇りも持ちはしない者だと言いきった彼の脆さと、強さが。一体どこで生まれ育ち、様々な国を流浪したあげくに今ここにいるのか。たった今ここで、全ての憎しみをかなぐり捨て、聞き出すことさえできたなら。
(持たざる者(後編)より抜粋)