度重なる確執と諍いのせいで、悪化の一途をたどる我がゴンドールとウンバールとのその戦いは、互いが相対しあった瞬間に既に始まっていた。
猛々しい合図のあと、第一軍団である歩兵隊が意気のこもったかけ声と共に敵の第一戦線に向かって出撃した。その一列に並んだ先陣隊の中に一人、群を抜いた速さで敵陣に駆け込んでゆく者の姿があった。その者が他者を抜く俊足なのは、最低限に身を守る甲冑しか身に纏っていなかったせいである。
無論、兜などかぶってはいなかった。
その者は、振り下ろされる敵の刃をけたたましい音で受け止めて、力ずくめにその刃をなぎ払うと、躊躇することなくその者の胸を貫いた。そして、間髪をおかずに次に襲いかかって来る者の剣を身軽にかわし、更に一人前進してゆく。
剣を振るたびに崩れてゆく敵の身体と、そこから飛び散る真紅の血潮の中、止まる事のない俊敏な動きを見せるそのゴンドール兵の後ろでひとつに束ねられた長い黒髪が鮮やかに宙に舞う。
それが、ソロンギルだった。
(駈栖朗様SSより抜粋)