巨大な目の虹彩が、まるで慈しむように、じわりと細められるのを、レゴラスは見た。
「―――ア――ラ――ゴ――ル――ン」
―――それは、空気の振動を得て伝わるような間接的な響きでなく、直接人々の耳に届き、びりびりと脳髄を揺るがせる仮借ない声だった。そして同時に、毒々しいまでの香気を含んだ、まろやかで甘い、したたるような声だった。まるで、遠い昔に輝かんばかりの容姿でエルフ達を惑わし、物贈る君――アンナタールと呼ばれていた頃の精霊に束の間戻ったかのように―――。
真におぞましいものは、その恐ろしさを感じさせないままに獲物をからめとるものなのだと、レゴラスはこの時になってはじめて悟ったのだ。
エルフの前に立っていたアラゴルンの背が、一瞬びりりと痙攣した。
(The Worlds End Garden2 SSより抜粋)