大国ゴンドールの名高き摂政を篭絡した人妖は、権勢をほしいままに貪った。虜となった摂政がみるみるうちにしなび、老い衰えるその脇で、ことさらに恭しく主人に媚び仕える様はいいようもない程に不快きわまりなかった。
そして主人の命があと僅かと知るや、化け物は本性を現わし都から飛び去ろうとしたのだ。
---許さぬ。
私は逃げ出そうとする化生を見逃さなかった。
己の父親を腑抜けにした妖物を、そのまま見過ごしておくわけにはいかぬ。飛び立とうとする翼を捕え、鎖に繋ぎ、打擲した。
---はやく、正体を現わせ。ひとの皮を脱ぎ、本性を曝け出すがよい。
人間であるはずがない。
この男は、魔物だ。化け物だ。そうに違いない。
魔物であるが証拠に、それは、年をとらない。
はじめて出会った時のままの容貌で、魔物は私を見上げる。端正な顔で。誇りやかな光を宿した蒼灰色の瞳で。
(「妖鳥」 SSより抜粋)