「御無事でしたか、族長。」
俯いた男は応えない。だらりと下げた手に持つ剣からオークの血が滴っている。その足元には、累々たる夥しい数のオークの死体が転がっていた。
ふいに、駆け寄ったハルバラドの前でアラゴルンの身体がぐらりと後ろによろめいた。
「―――アラゴルン!」
すんでのところで抱きとめ、ハルバラドは息を呑む。
自らの抱いた身体に妙なものが生えているのを見て。
オークの短剣が。
毒が塗られていると一目でわかる、ぬらぬらと黒い液体にまみれた短剣が。
腿に深々と突き立てられ、鈍い光沢を放っていた。
(「Dunedain」 SSより抜粋)