空間を四角に塗り込めたような闇のなかで、その鳥は羽ばたいていた。
ふたつの翼が、幾度もうち下ろされる。白い残像が、漆黒の闇を斜めに切り裂くように幾度も走る。まるで、燐光を放ちながら虚空へと消えていく、眩い流星の軌跡のように。
優美に弧を描く長い首に、鈍色の鎖が重たげに巻き付いている。細く伸びた両の足にも、また別の鎖が取り付けられ、幾重にも巻き付いてその自由を奪っている。
鳥は狂ったように羽ばたき、なんとか警めを振り切ろうと足掻く。首を振り、羽ばたくたびに、真っ白な羽毛があたりに舞う。
滲みひとつなく、雪のように純白だった羽毛は、やがて少しずつ、赤く染まっていく。たっぷりと血を含んだ、深紅の色へと-----。
(「鳥の記憶」SSより抜粋)